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コラム

コラム53 合併時の個別催告省略のためのW公告(会社登記)

合併の債権者保護手続きは「官報公告」と「個別催告」が基本


会社が合併する際、会社法では、債権者保護手続きを義務付けています。

具体的には、
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
1.官報で公告すること、かつ
2.会社の知れたる債権者には、個別に催告すること
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この2つです。

但し、「官報のほか、会社が定款で定める公告方法で公告した場合は、個別に催告はすることを要しない」(会社法810条3項)という規定があります。

「官報」が「会社が定款で定める公告方法」である会社がほとんどであるため、個別催告を省略したい場合は、事前に、もしくは並行して、「公告する方法の定め」も変更する、ことになります。


「個別催告」が面倒な場合の二重公告


官報と、官報以外の新聞で行う『二重公告』は、例えば、債権者数が多く、個別催告が煩雑になる場合や、「債権者」の線引きが難しいため、債権者への個別催告が漏れたことにより、後日、合併手続の無効を主張されることを避けたいような場合に、用いられています。

但し、費用は余分にかかりますので、メリット・デメリットを踏まえて、会社に判断してもらいます。


「二重公告」の具体例A


具体例A
・A社、B社(解散会社は有限会社)共に、元々の公告方法は「官報」
・8月9日、A社の決算公告申し込み(B社は有限会社のため、公告義務なし)
・8月19日、A社の合併公告を「甲新聞」に申し込み
・8月26日、A社の決算公告及び合併公告(連名)を官報に掲載
・8月26日、B社の債権者への個別催告書発送
・8月27日、A社の定款方法→公告方法を「甲新聞」と変更→8月27日登記
・8月30日、A社の合併公告を「甲新聞」に掲載
※「甲新聞」の合併公告に記載する「官報による決算公告の掲載ページ」は、26日ならないと分からないため、ギリギリになることを甲新聞が了解済みのスケジュール。
・10月1日、合併期日

本例では、官報にてA社の決算及び合併公告をした後に、公告する方法を「官報」から「甲新聞」に変更。「甲新聞」で公告することが、個別催告を要しない場合に該当するのかが気になったため、事前に法務局に照会をかけています。公告方法を変更した後に、改めて官報で公告し直す必要はない、ということでした。

公告費用は、官報でのA社の決算公告と両社の合併公告で、118,252円。
A社の甲新聞での合併公告(二重公告)で262,500円です(N紙の94,815円の見積もりも取っていました)。

この事例では、甲新聞での公告費用262,500円と、公告する方法の登記費用(登録免許税で3万円)の費用を負担しても、二重公告を選択されていますが、B社については、債権者漏れの心配がないということで、個別催告を採用されています。


「二重公告」の具体例B


具体例B
・A社、B社共に、元々の公告方法は「官報」
・2月23日、両社の決算公告申し込み
・3月14日、官報にて両社の決算公告
・6月20日、両社で定款変更→公告方法を「乙新聞」と変更→同日登記
・6月20日、合併公告申し込み(乙新聞分も、株式会社かんぽうが取り次ぎ:令和3年の事例)
・7月17日、「官報」で合併公告
・7月17日、「乙新聞」で合併公告
・9月1日、合併期日

公告費用は、A社の決算公告(官報)が111,497円、B社の決算公告(官報)が74,331円。費用の違いは、枠のサイズによります。
合併公告は、官報が両社分連名で71,786円、乙新聞が両社分連名で275,000円でした。

このケースでは、乙新聞の合併公告費用275,000円と、「公告する方法」を変更するための登記費用(登録免許税だけで3万円×2社分)を余分に支出されても、債権者への個別催告を避けられる方法を選択された、ことになります。

※同新聞であっても、公告費用が変わっていることもあります。


公告方法の変更登記のタイミング(登記研究905号P155)


公告方法の変更と、変更後の公告方法による公告のタイミングについては、登記研究905号の質疑応答に見解が示されています。

【要旨】
組織再編に係る債権者保護手続に際して、知れたる債権者への各別の催告を省略するために、定款上の公告方法を官報から日刊新聞紙に掲載する方法又は電子公告に変更をする場合において、公告方法の変更の登記の申請日より前の日を公告日又は公告の開始日とする、当該変更後の公告方法による公告をしたことを証する書面を添付してされた組織再編に係る登記の申請は、受理することができない。       
(登記研究 令和5年7月号 905号P155)

変更の日ではなく、「変更登記の申請日(受付日)」で判断する、と書かれています。
「変更の決議を行っていても、変更の登記をしていない限りダメだ」ということです。

この見解を元に、具体例Aを見ると、8月27日に公告方法の変更登記の申請→8月30日に変更後の新聞で公告。具体例Bを見ると、6月20日に公告方法の変更登記の申請→7月17日に変更後の新聞で公告をしていますので、質疑応答の要件は満たしていたことになります。


公告方法の定め方の注意点


なお、公告方法の定め方として、「官報又は〇〇新聞」という定め方はできない、とされています。


「株主リスト」の作成者に注意


吸収合併の場合、株主リストの作成者は、消滅会社についても「吸収合併存続会社の代表取締役」とされています。
「債権者から異議がなかった旨の書面」は、合併期日の前日に、消滅会社分は消滅会社に証明してもらうようにしています。

                                                (最終更新 令和5年7月22日)

                                                堺市の司法書士吉田法務事務所
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